恋の逃避行は傲慢王子と


 アビーの目の奥に決意を見たクローイは、深くうなずいた。



「ほんとう?」

 はしばみ色をした大きな目は見ひらき、ふっくらとした唇が弧を描く。その表情はとても輝いていた。



 クローイは、アビーのそういう表情が好きだった。

 アビーの笑顔は、まるで陽だまりの中にいるようなあたたかさがある。彼女はけっして彼女の父親が言う、『でくのぼう』なんかではなかった。


 クローイが今まで、どれだけ、『アビー・パーラー』という存在に助けられているのかを彼女自身は知らない。


 ――それは過去。クローイがまだ幼少の頃のことだ。


 彼女の父親はとても教育熱心でマナーに関しては特に妥協しなかった。



 というのも、『幼い頃から躾(しつけ)ておけば、成長してからマナーはすんなり身につく』というのが、クローイの父親の教育方針だった。


 そのおかげでまだ幼いクローイは苦しさのあまり、涙する日も多々あった。