恋の逃避行は傲慢王子と


 アビーはふたたび膝の上で拳をつくり、決意のこもった声でそう告げた。



 あまりの緊張で喉が締まる。それは唾を飲み込むことも困難なほどだった。

 父親の保護から離れ、家を飛び出すということがどれだけ難しいかは、アビー自身がよく知っている。不安が押し寄せてくるのも事実だ。

 けれどこのままここにいれば、自分はさらに、『でくのぼう』になりそうで怖かった。


 だからアビーは、自分を奮い立たせるため、クローイに告げた。

 クローイに、自分の決意が本物であることを示すため、顔を上げ、正面から彼女と向かい合う。

 長い沈黙が、六帖の部屋を包む。


 アビーの目の奥にあるのは、これまで常に自信を失くしていた揺れる瞳ではい。クローイを映し出す、はしばみ色の濁りのない目には、決意がこめられていた。


 アビーの言葉に嘘偽りはない。


「わかった。手を貸すわ」