恋の逃避行は傲慢王子と


 開いた口が塞がらないというのは、まさにこのことだ。クローイは、アビーの続けざまに話した内容に、あんぐりと口を開けたまま、何も言えなくなった。



 相手の男性は年齢の壁があるというのに、アビーとは顔を合わせるどころか、話したことがないとは……。ただでさえ、女性は男性よりも感情表現が豊かで、いろいろ準備がいるというのに、よくもまあ結婚しろと簡単に言ってくれたものだ。

 クローイは、アビーの父親の無神経さに苛立ちをおぼえた。



「ちょっと待って、意味がわからないわ。じゃあなに? アビーは会社のための、『生贄(いけにえ)』になるということ?」

 実の娘さえも商品のように扱う彼女の父親の性根に怒りがふつふつと湧き上がってくる。語尾の方は感情が一気にあふれ出た。必然的に声が大きくなる。


 クローイの率直な言葉に、アビーはあらためて自分の立場というものを思い知り、身を縮めてうつむいた。