黒板側の入り口から入って、最も廊下側の前から3列目が窓香の席。

鞄を机の上に置き、中から真っ先に(レモン味の)飴玉を取り出す。

アルミ製の小さな袋から中身を取り出し、口の中に放り込む。

残されたゴミとなる袋は無造作にズボンのポケットに入れておく。


窓香の学校には制服というものが存在せず、着ていく服は私服である。

窓香は、着ていて楽だから、という理由でスウェットがお気に入りなのだが

普段はジーンズを穿いている事が多い。

そのジーンズの中では、ポケットが六つもついていて、縫い目のところどころが淡い緑の糸で重ね縫いされているジーンズがお気に入りだ。


その六つとは、後ろ上部に二つ、前方上部に二つ、膝とふとももの間あたりに二つ、これで合計六つのポケット。

窓香が無造作に入れたのは、後ろの右側のポケットだ。


座った時に、右側が廊下側にあたるため、後ろの右側のポケットというのは、教室にいる皆から一番遠いポケット、という事でもある。


ちょっとは隠しておきたい気持ちでもあるのだろうか。



飴玉を口の中で転がしながら、鞄から教科書とノート、筆箱を取り出す。

鞄は机の左側に吊り下げておく。

実はこっそり、机の中に本を一冊入れてあるのだが、あまり読む気にはならない。

というのも、机の中にあるのは昨日読み終えたばかりの本で、まだ読んでいない別の本に入れ替えるのを忘れていたのだ。
それに、現国の先生は厳しいので、携帯どころか本を読むのも難しい。
普段は喋ってばかりいる他の生徒も、この授業だけはおとなしくしている。

窓香は黒板の上についているSEIKO製の時計に目をうつす。

授業開始の1時まで後2分ぐらい。そろそろ先生が来るはず。


お昼ご飯の後で、眠いなあ…このまま机に突っ伏して、寝ようかな…

そんな気持ちを抱えながら、授業のチャイムを待つ窓香であった。