二人は校舎に向かって歩いている。

同じように、次の授業に間に合うように戻ってきた生徒がちらほら見える。

傍目には、生徒同士が集団になっているようにしか見えない一群の中から
窓香に向かって声を掛ける者がいた。


「珍しい、今日は遅刻じゃないんだ。」

「いつも遅刻してる、みたいな言い方しないでよ」

「でも遅刻、多くない?」

「まぁ、それは…」


確かに遅刻は多い。それも、狙って遅刻しているケースが大半だ。

そりゃ、20分遅刻しても授業に入れてもらえるんじゃ、甘えて遅刻したくもなるよ…

と、まぁ表立っては言えない(もっとも、窓香は他の生徒に「狙って遅刻してる?」と聞かれて、返事をしない程度には嘘をつかない方だが)事を考えながら、鞄の中から飴玉を三つ取り出す。

「どれがいい?」


手のひらには、レモン味とイチゴ味、グレープ味の三種類の飴玉が並んでいる。

「おー…じゃあ、これにしよ。ありがとねー」


遅刻の話をした友人は、グレープ味の飴玉を選んで、現国の教室に戻っていった。


残りの二つは自分の分…っと思った、ちょうどその時、背後から声がした。

「私にも頂戴よ。私はこれね。」

"お互いのことは、まぁまぁ知り尽くしている相手"は、颯爽とレモン味の飴玉を自身の物にしながら、こう言った。

「いいでしょ、別に同じ授業ってワケでもないのに、迎えにいってあげたんだから。飴玉の一つぐらい貰ってもいいと思うんだけどな…。……いいよね?」

「…うん?いいけど…」

「……けど、何よ。ハッキリ言いなさいよ。」

「いや、私もレモン味の方が好きなんだけど。」

「…知ってる。(笑)」


"お互いのことは、まぁまぁ知り尽くしている相手"は少しだけ嬉しそうな顔をしながら、自分の教室へと消えていった。


取り残された窓香は、(レモン味、まだ残ってるかなあ…)という顔をしながら
自分が食べる分のレモン味を探しながら、現国の教室へと入っていった。