「だって、受ける高校うちだぞ。塾に金払うのが惜しい」

足立くんは、冷酷に言ってのけた。
問題集を山積みにした謙也くんは、その言葉を幾度となく聞かされているのか、うんざりした表情を向ける。
ていうか謙也くん、わざわざこの部屋で勉強するのかよ。

「くそ、そりゃ実里は海崎うけるのなんか余裕だったろうけどさー、俺はあそこでもギリギリなの!なんで実里も亨もめちゃくちゃよくできるのに、俺だけこんなバカなの?」
「諦めろ謙也、お前はどっか好己と同じ遺伝子が入ってるからな」
「おい実里、なにさりげなく俺のことバカにしてんの」
「まあまあ、きょうだいですからみんな似たような遺伝子入ってて当然ですよ」

謙也くんも亨くんも、双子なので同じ受験生。
亨くんの方は、学校内でも優等生の位置づけにあって地区トップ且つ県トップの公立高校を目指しているらしい。
一方の謙也くんは万年平均男の異名を欲しいままにしているそうで、海崎高校が妥当らしい。
それで、足立くんから「そんな高校行く為に塾に頼ることはない」と宣告されて自主学習に励んでいるそうな。

「へー、謙也くん海崎受けんの?頑張れー」
「あっ、ありがとうございます佐伯先輩!」
「そうそう、私でも入れたしさー」
「あ、そっかー、弓弦くんが入れたなら・・・ありがとな、ちょっと自信ついたわ」
「ねえ、私と佐伯くんの何が違うの?言っとくけど私の方が頭いいんだよ?」

佐伯くんは、出会って数秒で謙也くんに少し尊敬の念を抱かれているらしい。
まあ、今をときめく男子高校生を体現したような存在だ。
でも、私が初対面からなめられているのは意味が分からない。
足立くんに追従して水持ってたからかな。でも、それって感謝するところじゃない?

「えっと、何しにきたんだっけ俺ら」
「ああ、夏休みに遊ぶ計画を立てようと思いまして。宿題が終わっていない方のことを考慮して、登校日五日前より前の日で一日や二日、みんなで遊ぶ日を決めたいと思います」
「私、だいたい空いてるよー」
「俺も暇ー」
「まあ、場所から決めますかーーー」
「・・・祭りでも行っとけばいいんじゃないか」

意外にも真っ先に意見を出した足立くんの言葉で、本日の会議はほぼ終了となったのだった。