下足箱のところで足立くんと渡部さんに合流した。
渡部さんはタオルで力なく汗を拭っている。足立くんに鞄を持ってもらっていたらしく、持ち物はそれだけだった。

「私が馬鹿だったんです」

期末考査でも学年トップをキープした才媛が、この世のものとは思えないぐらい暗い声をあげた。

「家から近いって、それは地図上の距離にすぎなかったんです。こんなに階段を上らなくてはいけない学校を選ぶだなんてどう考えてもおかしいです。受験生の時の私はきっと気が狂っていたんです。私ならいくらでも穏やかな平地にある学校を選べたでしょうに」
「うん、ドンマイ」
「由美、ぼやくな。だるさが伝染する」

足立くんは迷惑そうな顔をしながらも、その手で渡部さんに冷えたミネラルウォーターを差し出した。おまえは渡部さんのマネージャーか。
昇降口前の自動販売機で購入したようだ。
私は水の違いなどてんで分からない純然たる庶民なので、水道水にも代替できるようなものをわざわざ自動販売機で購入したくないと思っている。
でも、ごくごくと透明な水で喉を潤している渡部さんを見ていると何となくペットボトルの水を飲むのも魅力的に思えてくる、かも。

「足立なんでミネラルウォーターなの?せっかくだからジュースとか買ってあげたら良いのに」
「わかるわかる。自販機で買うならジュースだよねー」

佐伯くんがどうやら同士のようなので、私は敏感に反応して賛同した。

「安いからに決まってるだろ」

足立くんはさらりと言うと下足箱を開けて手早く革靴と上靴を入れ替えた。
箱の中には、ちょこんと消臭剤が置いてあった。いつのまに。
足立くんの用が済んで自分の箱を開けてみるとなんか臭い気がするのでショックだ。消臭剤、真似しよう。

「じゃあ教室行こ」

全員が上履きに履き替え、佐伯くんがそう言ったところで私はふと足下を見てはっとした。