足立くんから中だるみを指摘されているうちのクラスでは、宿題や予習を忘れーーーいや、わざとやっていない者たちがある行動をとっている。
宿題や予習をちゃんとやってきた人間に、写させてもらうのだ。
そんなことをしても、自分が賢くなれるわけはないのだが、授業を一時的に凌げる。
凌ぐ事が、彼らにとっては重要な事なのだ。

渡部さんは、人間的に、凌ぐために利用させてもらうにはかなりおあつらえ向きだった。
なんと言っても押し付けやすい。そこは、新学期早々に私が実証済みだ。ごめんなさい。
そして、中間考査でたたき出した学年トップの頭脳。
休み時間になるたびにノートを持った女子に囲まれている渡部さんを遠目で見ながら、私は災難だなと同情するのだ。
ちなみに、席替えならとうに起こっている。足立くんとも離れたし、渡部さんとも近くならなかったけど、佐伯くんは隣になった。
昼ご飯を食べる時は、私と渡部さんが足立くんの元へ行く。彼は絶対に席を移動しないからだ。
たまに、パンを食べながら教室をうろちょろする佐伯くんが乱入してくる。

まあ、そんなことはいいだろう。いま問題なのは渡部さんがたかられていることだ。
たかられている、我ながら見事な表現だと思う。
渡部さんは、昨日の自分の努力を、たかられているのだ。
それに、宿題や予習だけじゃない。渡部さんはなぜか係の仕事であるはずの、提出用ノートの集計まで押し付けられているのを目にする。
これって、もしかして私のせいで渡部さんが押し付けられ役に適しているという認識が出来上がったのだろうか。
非常に罪悪感を感じながらも、私は四月の宣言通りなるべく渡部さんを手伝うようにしている。

今日も、渡部さんは数学の宿題のノートの数を数えていた。

「渡部さん、私ノートの名前言うから名簿に丸つけなよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「あはは、ノート少ないねー」
「はい。他人事ですが、学力が心配になってきますね」
「だよねー」

渡部さんは丸印の書き方も丁寧だ。四十人中丸印は二十八人しか埋まらなかった。
これは確かにひどい。
うわあ、と思いながら浮かび上がるのは足立くんの冷ややかな表情。
この十二人はあの顔で軽蔑されているのだ。