それは、我々がやっとのことでブレザーの内側から脱出した時期のことだった。
暑苦しい上着を脱ぎ捨てて、ようやく解放感に浸ろうかというそのときに、梅雨は訪れたのだ。

梅雨。実によくない。
プレハブ教室の中は常に湿気と、それに伴うクラスメイトの鬱っぽい感情を閉じ込めている。
だいたい、傘を持って外へ出るのが面倒くさい。
下足箱付近も、多くの生徒が雨の中競うように飛び込んでくるせいでびしょぬれだ。
学校には傘袋など洒落たものは用意されていないため、誰かが歩くたびに傘に付着した雨水が床に線を引く。
足立くんは、廊下が濡れるのは見るに耐えないタイプらしかった。
いつも下を見ては拭き取りたそうな目線を投げかけている。
この人、美化委員になればよかったのに。

委員と言えば、図書委員は相変わらず二人で仲良くやっている。
嘘です。
当番中、足立くんはほぼ私に仕事を押し付けて好きに本を読んでいるのだ。
文句がないこともないのだけど、正直忙しすぎる事もないし、慣れてきたので全部自分でやってしまいたくなるのだ。
一部の生徒に経験が固まるのは由々しきことだという意見も、ふだんは尊重するけど図書委員の仕事程度の経験は別に偏っていいだろう。
今日も今日とて入荷したばかりの小説のページをめくりながら、足立くんはふいに口を開いた。

「そういえば浅野」
「なに?」
「謙也がどうしてもお前に勝ちたいらしい」
「え?無理だよ、あの子弱いもん」

五月のある日、足立くんの家に行ってから、変化があった。
弟が絡んでくる。