私の名前は浅野弓弦。
男の子みたいな名前だけど、れっきとした女である。
さらに言えば、弓道にも弦楽器にも縁は無い。
張りつめた弓のようにまっすぐな女の子でもない。

自己紹介はこの辺りでいいとして、私が先日入学した海崎高校というところについて話したい。
学区内の偏差値としては真ん中辺りの公立高校。
名前の割に、海など遠くにしか望めない山の上に位置していて、少々通学が面倒くさい。

まずまずの伝統ある学校だが、建物の老朽化により工事が行われていて、私たち新入生はプレハブ校舎に押し込まれている。
空調設備が整っていないので、夏には過酷な運命が待ち受けていることを予感させる。
一年生は七クラスあって、文理選択がまだなので編成はごっちゃ。

私のクラスは三組で、担任は浜地里美先生という。
新任の若い女教師で、なんだか頼りないが人としては善良そうで普通に良いと思う。
ただ、微妙に抜けている雰囲気が、さっそくクラス内の過激思想派的な女子の細かな反感を買っている。
ぶりっ子と呼ばれているのだ。
うまいと思う。
どこがうまいって、浜地を魚のハマチにかけているところだ。
ハマチってブリのことでしょ。
ほら、うまい。

なんてこと、本当にみんな考えてるのか分からないけど。