それは、思春期の女子高生の繊細な想いがこめられた、まさしく戸惑うほど正統派をいく、恋文であった。
紛れもなく、そうであった。

差出人が誰か知りませんが、お嬢さん。
あなたの想い人は、恋文を開封後数秒で他人の視線にさらす男ですよ。

「えっ、私そんなの覚えないし。そんな奥ゆかしい文面とかマジで縁ないし」
「由美の字じゃねえんだよ。じゃあお前だろ」
「えっ、なんで既に二択になってるの」
「俺とまともに話した事ある女子とか、お前らだけだろ」

私は渡部さんと視線を交わした。渡部さんもやはり戸惑っているようだ。

「信じられませんーーーいくら暇だからって実里くんなんかに手紙を書くなんてーーーこれほど建設的でない時間の使い方はないでしょう」
「待って、渡部さん。それは言い過ぎでないかな」
「おい浅野、由美の言葉にかこつけて逃げてんじゃねえ」
「逃げてないし!だいたい足立くん、前提がおかしいんだよ。まともに話したことがない女子でも手紙くらい書いてもいいんじゃないの?」

ま、こんな古典的な代物見たの、私も初めてなんだけど。
正直少し引いたとか、お、思ってないんだからね。
それにしても足立くん、警戒心しか抱いてないな。

「まともに話さずに何を好きになろうってんだよ」
「顔じゃないですか」
「渡部さんーーーあの、女の子としてこの文面からなにか汲み取ってあげませんか」
「そもそも、少し前から俺は、お前が俺の事好きなんじゃないかと思ってたんだよ」

は?

「図書委員の活動もやたら隣に来るし、日直の仕事一緒にやろうとか言ってくるし、休み時間もやたら話しかけてくるし」
「出席番号近かったらそうなるんだよ!だいたい私と同じ委員会なのは足立くんのせいでしょ!」
「・・・?」
「なんでそこで疑問符なの?」
「浅野さん、実里くんは今まで女子に話しかけられる機会が無かったんです。出席番号近くても」
「いや、だからってさあ・・・」

私は胡散臭そうに手紙を睨み直す足立くんの様子を窺いながら、息をついた。