「足立くん、テスト勉強っていつから始める?」

昇降口で足立くんの姿を捉えた私は、問いをぶつけた。
思い出してその後に「おはよう」と挨拶を補足する。
みんなと同じようにブレザーを腕にかけた足立くんは、律儀にも「はよ」と挨拶から応じた。

「テスト勉強?俺そんなのしないけど」

あれ、まさかの不良宣言?
もしくは天才肌とかいうオチだろうか。そうだったら許せないけど。

「毎日の勉強もテスト前の勉強も変わりないだろ。馬鹿じゃねえのおまえ」

ごめんなさい、許してください。

「浅野さんは短期集中型なんだそうですよ、実里くん。要領がいいって羨ましいです」
「一週間前にバタバタあがきだす奴のどこが要領いいんだよ」
「いじめないで」

この二人と勉強の話題をするべきではない、と私は察した。
逃げるように下駄箱に手をかけ、上履きを取り出す。地面に叩き付けるように放ってさっと横にそれる。
私が迅速な動きを要求されているのは、まぎれもなく足立くんのせいだ。
足立くんの下駄箱は私の下にある。私が自分の下駄箱に用がある時は、足立くんが使用できないのだ。逆も然り、だけど。
四月いっぱい「邪魔」と睨まれたせいで、習慣となってしまっている。

「あれーーー実里くん、なんですかそれ」

渡部さんの声に、私は振り返った。足立くんが自分の下駄箱から現れたらしい一通の封筒を手にしていた。
女の子らしい、淡い色使いと繊細な模様が描かれているそれが意味するものは。まさか。

足立くんは躊躇せず封を切ると、中を確認しはじめた。それから、まっすぐこちらを見た。

「これーーーーお前の仕業だな」

・・・え、なんで?