その尊敬する女神国の女王は、今、頬を膨らませて紅茶を口にしている。

俺が脱走を阻んだ事を、余程腹に据えかねているらしい。

が、そんな顔をされても困る。

大臣に言いつけられているのだ。

乙女を止められるのは紅殿しかいない、と。

まぁ実際そうだろう。

小国から女神国になったものの、やはり武術では俺と乙女が一、二を争う腕前だ。

女神兵が束になったところで乙女は止められぬ。

ならば彼女のお目付け役は、結局の所俺しかおらぬのだ。

「…紅は、私に自由を与えぬ気なのだな。自分は何より自由を重んじるくせに」

先程から目も合わせてくれぬ。

プイとそっぽを向く彼女の髪は、しなやかに揺れる。

左右にまとめられた、背中まで伸びた長い銀髪。

その髪が、日の光を浴びて輝く。

まるで降り積もったばかりの新雪のような美しさだった。

その銀髪に負けず劣らず透き通るような白い肌。

宝石のように光り輝く瞳。

不機嫌に表情を曇らせたとて、彼女の美しさ、可憐さはいささかも損なわれる事はない。

むしろその頬を膨らませた表情が、微笑ましくさえあった。