鋼線がかすめた木の幹には、まるで刃で斬りつけたような痕が残る。

その傷跡が、漆黒の鋼線の威力を物語っていた。

一撃でもまともに食らえば致命傷だ。

俺は全ての攻撃を確実にかわさねばならないが、漆黒にしてみればたった一撃でも確実に当てれば勝利は確定する。

圧倒的に漆黒に有利な戦いだった。

このままでは埒があかない。

そう考えた俺は、一瞬の間隙を突いて漆黒に突きかかる!

しかし。

「!」

漆黒は頭上の木の枝に鋼線を巻きつけ、樹上に逃れて槍をかわした。

「何故森の中を戦場に選んだかわかるか?」

樹上でニヤリと笑う漆黒。

「…ああ」

俺は静かに頷く。

確かに森の中ならば、鋼線の特性を十二分に引き出す事ができる。

「それに…身の周りをよく見ろ、紅」

漆黒に言われて辺りを見回す。

「…!」

いつの間にか、俺の周囲に鋼線が張り巡らされていた。

まるで蜘蛛の巣のように、俺を中心として鋼線が前後左右に複雑に絡み合う。

身じろぎでもすれば、刃のように研ぎ澄まされた鋼線に触れてしまいそうだった。

「いつの間に…」

「無論、貴様との攻防の間によ。無駄に攻撃を仕掛けていた訳ではないという事だ」

漆黒はもう一度ニヤリと笑った。