「無論あるとも」

漆黒は呟く。

「そのランスロットこそ俺の真の名だ…自在鞭(じざいべん)のランスロットといえば、隣国にまで轟くほどの英雄だった」

…確かに。

美しい立ち姿と類稀なる強さ。

ランスロットという男は戦乙女に並ぶほどの英雄だった。

…仲間に裏切られ、火炙りにされるまでは。

「劣勢に立たされ、俺の仲間は単身戦いにのぞむ俺を見限ってあっさりと逃げた。残された俺を待っていたのは、捕虜としての日々、拷問、そして火炙りの刑だった」

そう、俺の知る限り、ランスロットはその火炙りによって処刑されたとされている。

「しかし死の間際、俺は黒の旅団の頭目に命を救われた。そしてその頭目に忠誠を誓ったのだ…俺を裏切り、見捨てた仲間達に復讐をする為…聞こえのいい騎士道を振りかざす、偽善者どもを根絶やしにする為にな」

漆黒の全身に巻いた黒い包帯は、火炙りの際に受けた傷を隠すためのものという訳だ。

優男と言われたその美しい姿も、今ではふた目と見れぬおぞましい姿に変貌しているのだろう。

漆黒の眼には、憎悪と復讐の炎が灯る。

…この男は既に、ランスロットではない。

復讐鬼と化した、一匹の悪魔だ。

「まずは貴様だ紅!俺の肩に傷をつけた貴様を、この場で屠る!!」

鋼線を鞭のように操り、漆黒は襲い掛かってきた!

次々と放たれる鋼線を巧みな槍捌きで弾きながら、俺は森の中を走る。

「相変わらずの逃げ足だな!」

森の中、木々の間を縫って、自在に鋼線による攻撃を仕掛ける漆黒。

障害物となる木々をものともしない。

漆黒の操る鋼線は、まるで生き物のように樹木をかわし、俺だけを的確に狙ってきた。