成程、そういう事か。

私は歯噛みする。

「女神国の兵程度、百騎もいれば十分に全滅させられると…そういう事なのだな」

ここまで愚弄されるとは…!!

「待て、落ち着け乙女」

紅が制しようとするが。

「これが落ち着いていられるか!」

私は腰の大剣を抜き、黒の旅団に切っ先を向けた。

「全軍突撃!!思い上がった黒の旅団に、戦女神の鉄槌を振り下ろしてやるのだ!!」

命令と同時に、女神兵達が愛馬を駆って突っ込んでいく。

百騎で倒せるというのならば倒してみるがいい。

戦乙女の精強なる兵の力、思い知らせてくれる!!

「紅も続け!遅れるなよ!!」

私も馬を走らせる。

「チッ」

苛立ったような紅の舌打ちが聞こえた。






女神兵は怒涛の如く黒の旅団に襲い掛かる。

それはまるで何もかもを飲み込んで押し潰す津波のようであった。

たった百騎の兵など物の数ではない。

激突の瞬間、瞬く間にして黒の旅団の十数人の兵が、女神兵によって斬り捨てられた。

すると。

「!」

黒の旅団はいともあっさりと転進、撤退を始めた。

まるで始めから戦う意思などなかったかのようだ。

あまりによ過ぎるその引き際が、かえって私を苛立たせる。

仮にも騎士のくせに、そんなに簡単に敵に背を向けるとは。

奴らには騎士の誇りというものがないのか…!

「全軍、追え!!黒の旅団を逃がすな!!」

いつもならば背を向ける相手に攻撃は加えないのだが、今日の私は冷静さを欠いていた。

すぐに追撃の命令を出す。

…これが黒の旅団の策であるとも知らずに…。