俺は屋根の上の男に向き直る。

「話してもらおうか。お前は何者だ。当然この魔槍とも関係あるのだろうな?」

「……」

男は語らない。

「…フン、喋る気はないという事か」

俺は魔槍を携えたままニヤリと笑う。

「ならば独り言でも喋らせてもらうか…自由騎士をしていた頃、噂話で聞いた事がある」

それは、とある騎士団の噂。

…元々はどこにでもある騎士団だったその組織は、ある時大敗を喫し、全滅の危機に瀕した。

誇りある死か、手段を選ばぬ生存か。

騎士にとってどちらが正しいのか俺にはわからぬ。

…その騎士団が選んだのは後者だった。

卑怯と言われる手を使い、見苦しい戦いをしてまで、何とか彼らは生き延びる。

そしてそれを境に、彼らは誇りを捨てた。

邪道と言われる戦術、下衆と言われる戦略。

あらゆる手段を駆使して敵を倒し、略奪を繰り返す。

本来ならば騎士が使う事のない、暗器なども迷う事無く使った。

…その戦いぶりから彼らは忌み嫌われる。

いつしかついた名が『黒の旅団』。

戦いと血と戦利品のみを求めてさ迷う、盗賊まがいの騎士団だった。

「貴様も、その黒の旅団の一人なのではないか?」