「そのように不機嫌になられても困る。このような務めを俺に与えたのはお前だろう」

苦笑いを浮かべながら言ってやると、乙女はますます不機嫌そうな顔をした。

「つくづく貴方は敵に回すと曲者だ。何せこちらの手の内を全て知っているのだからな」

ティーカップとソーサーを、わざとガチャンと音を立ててテーブルに置く乙女。

その器はマイスターが丹精込めて焼いた逸品だ。

もう少し丁寧に扱ってもらいたいのだが。

「さてと…」

乙女は立ち上がる。

「先程の書類で終わりだろう?ならば少し鍛錬場に付き合ってはもらえぬか」

彼女は悪戯を思いついた子供のような顔をした。

実にクルクルとよく変わる表情だ。

「脱走を邪魔された仕返しがしたい」

「ほぅ?それは面白い」

俺は笑みを浮かべて応える。

先の戦から一年。

互い鍛錬に手を抜いた事などない。

ただ、両者ともその腕前を見る機会は不思議と訪れなかった。

「公務にかまけて腕が鈍ったなどという言い訳は聞かんが?」

「そちらこそ、武術指南役が負けたとあっては兵に合わせる顔があるまい。断っても構わぬぞ?」

憎まれ口を叩き合いながら、俺と乙女は鍛錬場へと向かって廊下を歩いた。