晩秋だった。

我が国を覆う森林も生気に満ちた緑から老いを感じさせる枯葉色に染まる。

吹く風もどこか肌寒いものに変わり、若々しく青い草原も、金色の絨毯を敷き詰めたように変わった。

…国を取り囲む湖は磨き上げられた鏡のようであり、水面には波一つ立つ事無く、凍り付いているのではないかとさえ思わせた。








かつてこの場所で、戦があった。

戦乱と混沌に満ちたこの地には、日常とも言える数多い戦の中の一つ。

しかし、その戦と勝利した国は、全土にまで知れ渡った。

二十五万の大国を敗北せしめた、たった五万の小国。

それを率いて戦場に立ったのは、戦乙女の二つ名を持つ年端もいかぬ小国の姫君と、紅の外套を身にまとった自由騎士。

それは民衆にとっては童話の中の話のようであり、騎士達にとっては天より降って湧いた奇跡のようであった。

そのような武勇、放っておく筈もなく。

庇護を求めて、剣を預ける君主を求めて、多くの者がその小国に集い始めた。

大国との戦の終結直後は二万以下の兵数だったその国は、あっという間に二十万にまで膨れ上がった。

だが、その国の君主となった姫君…つまりは私の事なのだが…に仕える者の一人が、その二十万を十万にまで削った。

「この国に移住するのは構わん。だが兵として受け入れるのなら話は別だ。我が軍が求めるのは身分でも勇名でもなく、真に強き者のみ」

そう言って彼直々に見初めた者のみがこの国の騎士となり、はれて『戦乙女の兵』を名乗る事を許された。





女神国の女神兵。




その称号を得られる事だけでも、この時代、この地の騎士にとっては、大変な名誉であるようだった。