彼女がくくりつけたおみくじはまだあった。

 あの夜に僕が開いて読んだそれらは、元通りにくくりつけてあったのだ。彼女がきても僕が盗み見したとはわからないように元通りに。

 だけど、その必要なかったのかもな・・・。

 桜が終わってしまった。だからあの人も来なくなった、そう考えるのが妥当だろうって、思っていた。

 僕には理由が判らなかったけれど、彼女はここで何か、か、誰か、を待っていたのだろう。それが偶然出会ってしまった僕ではないことは確かだけれど。

 何が起これば喜んだのだろうか。

 いつでもサイズオーバーの、ぶかぶかの服を着て。腰のところを紐で結んでずり落ちないようにしていたズボン。裸足に履き潰したスニーカー。短くて何の装飾もない髪の毛。それから、そばかすが散る白い肌と、あの薄い色の瞳。

「なーんだった・・・のかなあ~・・・」

 木の幹に毛虫を見つけて、その動きを目で追いながら僕は一人で呟く。



 そういえば、彼女の名前も知らないままだったな。

 後になってから、そう思った。