前者なら大変だ、そう思いながら、僕はもうちょっと近づいた。とりあえずこのポンチョみたいな上着をかけて、立ち去ろう、そう思ったのだ。

 それでちょっとばかり親切な通りすがりの人、で終われるかな、と期待して。

 だけど。

 ゆっくりと近づいて、盛り上がった根に引っかかっている上着を取り、それを彼女の体にかけようとしたところで、その人の瞼がゆっくりと震えた。

 ―――――――――あ。

 声には、出さなかったと思う。だけど僕は一瞬固まってしまった。起きるとは思ってなかったから、いきなりのことに緊張したのだった。

 パチっと、その人は目を開いた。そして周囲を確かめることなどせず、まっすぐに顎を上げて僕を視界に捕らえる。

 やっぱり睫毛が長かった。そして灰色がかった、青っぽい色をした瞳。

 その両目に不思議そうな光が浮かんだのを見て、僕の金縛りがとけた。パッと上着から手を離して後ずさる。

「あ、の――――――風邪、風邪ひくと思って、それで」

 舌が絡まって上手に言葉が出てこない。僕は何故だかやたらと焦ってバタバタと両手まで振り回す。ああ、どうしたんだ、全く!

「それで、すみません、起こすつもりはなかったんですが!」

 わたわたとムダに大きな声でそう言うと、その人は僕が手放して膝の上に落ちた上着を見てから、ゆっくりと片手で拾った。

「Thank you」

 え、英語?自然過ぎる流暢な発音に僕はぐっと黙る。・・・やっぱりこの人、ハーフの人か何か?目もちょっと色が薄いし、それに白い肌――――――――