・・・また、いた。
満開の桜の木の下に、少年のような少女。
昨日と同じ光景だった。もしかして夜通しいたとか?そんなことを考えてしまって、僕は思わず体を震わせる。
幽霊かもよ?先輩の言う声がまた蘇って、僕の頭の中に響き渡った。
だけど彼女をよく見ることで、その考えを追い払った。
だって、服装が違うのだ。やはりその華奢な体には合っていないと一目で判るほどのブカブカの服ではあったけれど、昨日のシャツとは違ったのがハッキリと判った。寒くないかな、と思ったからじっと見ていた、そのかいがあったらしい。
今日は緑色のロンT。その上には昨日と同じポンチョ型の薄いニットコート。灰色のズボンもやはり大きいらしく、足首のあたりで余った布が渦巻いている。あの人は今日は寝ていなくて、ただ根元に突っ立って花をしみじみと眺めているようだった。
老木に、そのこげ茶色の枝が見えないほどに咲いた薄いピンクの花を。
あんなに風が強かったのに、まだまだ枝には花が残っている。まるで次々に沸いて出るみたいだ。そう思いながら僕は歩く。
近づかなかったし、声もかけなかった。ただの一人の散歩をする人間として僕はそこを通り過ぎる。ただ、今日もいたんだ、と確認できただけでよかった。
彼女が何者かはわからない。
何をしているのかも判らない。
だけど、あの人は今日もあそこにいる。