ひょえー!僕は正直に嫌そうな顔をする。だって、幽霊さんとか実体のない方はちょっと・・・。
「そんなの嫌ですよ~!でもあの人ちゃんと影もありましたよ、僕見ましたもん!」
「幽霊でも影くらいあるかもしれねーだろ」
「ないでしょ幽霊なら!」
「お前みたことあるの?」
いや、ないけどさ!むすっとして僕は黙る。先輩達は僕をからかって気が済んだらしく、よっこらせと立ち上がって伸びをした。
「ほら、交代だ。もう30分経ってるから、次と代わってやらねーと」
「行くぞ」
僕も慌てて立ち上がった。そして、居酒屋のホールという名の戦場へと戻っていく。そこは明るくて喧しくて底抜けに賑やかで、幽霊なんてちっとも関係ないような場所だった。
タバコの煙がダウンライトに向かってキラキラと光りながら上っていく。それはちょっとばかり、今日の昼間の桜の花びらを思い出させた。
強風に煽られて、ハラハラと散る薄ピンクの小さな花びら。
視界一面が一瞬で染まってしまう、あれが自然の驚異。
その白い波の下、こげ茶色の太い幹にもたれて眠っていたあの人。
・・・あれは、桜が見せた幻だったのだろうか。それとももしかして、本当に幽霊とか?
瞼の裏には、彼女の短い髪の毛にひっついた花びらが揺れる残像が、いつまでも残っていた。