花冷えのあの日。


 ざあっと音を立てて風が吹いて、折角見事な花を咲かせている桜の木々を大きく揺らして通り過ぎていった。

 その瞬間、これが桜吹雪か、と思わずため息が出るような、一面薄ピンクに染まる景色。

 僕はハッとして、口を開けて桜の花びらに埋められていく青空を見ていた。



「すんげー・・・」

 自分だけに聞こえる小さな声で、そう呟いて。

 たまたま時間が空いていた。

 だからバイト前にってちょっとした遊歩道をぶらぶら歩いていたのだ。

 普段なら、音楽でも聞くか漫画でも読んでいる、そんな隙間時間に。

 平日だったけれど、桜の並木で綺麗に花が見られることもあって、その遊歩道は花見を兼ねた散歩中の人で結構な盛況さだった。自分のことは棚にあげて、皆暇なんだな~と心の中で感想を述べる。

 どうして平日の午後2時なんて中途半端な時間に、こんなところを優雅に散歩している人がこれだけたくさんいるのだ。

 仕事や学校は?僕は一人で首を捻りながら歩いていて、ふと、視線が横に逸れた。そして、ちょっと離れた大きな桜の木の下で眠りこける人に気がついた。

 ・・・寝てる、よな。

 遊歩道から少しばかり離れた山裾の、その空き地のような場所で、一本の古くて大きな桜の木が風に揺られて立っている。その木の根元、どう見ても人が寝ている。