レンを置いて城の中に走って戻る。
角を曲がろうとしたところで、誰かにぶつかってしまった。



「わっ」

「きゃっ」




バランスを崩した私をとっさに伸ばした手で支えてくれたのは、ソウシだった。





「あ…」

「紗南さん、大丈夫ですか?」





驚いた表情を見せ、私の態勢を整えてくれる。
私は涙を拭いながら顔をそらした。




「泣いているんですか?」

「……っ。レンは、私の事なんてどうでもいいみたい」

「え?」

「私が、王子と結婚しようが城下で一人で暮らそうがレンには関係ないんだって」





吐き捨てるように言う。
ソウシは、少し困ったように笑うと私を一目のつかないところに連れていく。





「紗南さんの選択肢には、王子と結婚するか城下で暮らすかなんですね」

「え…?」

「自分の世界に戻る、という選択肢は考えていないようなので」

「あ…」




いつの間にか、私その選択肢の事を忘れていた。
この世界で生きる覚悟、いつの間にかできていたのかな…。