「紗南さんが言ったのが正しければ、そろそろ見えてもおかしくないんですよ」
「え?」
「城ほどの大きな建物がこれだけ進んでも遠目にも見えないのは少しおかしいと思いませんか?」
そう言われて前を見る。
確かに、城らしき建物は遠くの方にも全く見えないのだ。
それはおかしい。
あまり外観は見ていないけれど、魔王の体格を目の当たりにした。
あの大きな体が悠々と入れるほどの城だ。
それはかなりの大きさの城だと容易く想像ができる。
それならば、かなり遠い位置からでもその城は目視できるはずだ。
位置的に見えないのかといえばそうではない。
薄暗いとはいえ木が生い茂っているわけではなく、ほどほどに生えているため結構遠くまで見渡せる。
それに一本道だ、そこまで高低差のない平坦な道なのだからさすがにそろそろ見えてもおかしくはない。
「でも、道は間違ってない。私、まっすぐ来てたはず」
「ああ。そもそもあの道からここまで他の道はなかったはずだからな」
「それじゃあ…」
混乱する私の頭。
後ろのレンを振り返り不安な顔を見せると、安心させるように小さく頷いた。
「…もしかしたら、何か結界みたいなものでも張られているのかもしれない」
「結界…?」
「ああ。他の、例えば人間には見つからないように」
「そんな…」
それじゃあ、私たちは城の姿を見つけることすらできないってこと?
そんな!
「まだ終わったわけじゃない。一度宿に戻って作戦を練ろう」
「戻るの?」
「夜になるとこっちが不利だ。悪魔は夜でも目が効く」
「…」
「大丈夫だ。必ず助けてやる」
レンの優しい手が私の頭をなでる。
私はその手を信じようと思う。
深く頷いて、レンを見つめた。
レンは、どんな気持ちだろうか。
私が敵である悪魔を助けようと必死になってる。
本当は、助けたくなんてないのかもしれない。
でも、私のわがままをきいてくれているだけかもしれない。
いや、実際そうなんだろう。


