「…何でも、ない…」

「なんでもないって…。あ、入る?」





訪ねてきてなんでもないって、そんなこと言うような人じゃないはず。
用もないのにやってくるなんて、そんな無駄なことしない人だ。
それなのに、どうしたんだろう。








「…あ、え?ど、どうしたの?その手!」

「…あ、ああ…。ランプを殴ったら切れた」

「はぁ?ランプを殴ったって、どうしたらそんなことになるのよ」






そんな状況になることが全く想像つかないんですけど。
でも、血は止まっていないみたいでポタポタと滴っている。

見ると歩いてきた廊下にも赤い斑点が。





「入ってて。私、何か手当てする物貰ってくる!」

「そんなものいい」

「よくない!化膿したらどうするの?いいから待ってて!」






私はレンを部屋に押し込むと誰かいないかと探す。
それはすぐに見つかって事情を話すと包帯と消毒液を貸してくれた。
それを持ってすぐに部屋に戻る。







「お待たせ。ほら、右手出して」





そう言って手を伸ばすと、レンは渋々と言った感じに右手を差し出した。
流れる血をぬれたタオルで拭い傷口を消毒する。
染みるのか、眉をひそめるレン。





「なにか、あったの?」

「…少し、嫌なことを思い出しただけだ」

「いやなこと?」





そのままレンは黙り込んでしまった。
言いたくないことだってきっとあるだろう。
私はそれ以上何も聞かず、ゆっくりと包帯を巻いていく。


レンにはきっと秘密がある。
それは、ソウシやほかのみんなにも言えることだろう。



いつか、部屋でソウシと二人で話していたこと。
結局なんの話だったか分からずじまいだけど、何かを隠しているのは確かだ。