あなたには聞こえますか…………

マンションで花梨を待っている雪は、

当時のその手紙を思い出していた。




あの手紙を一度見てから、雪は花梨の事

も、その手紙の事も辛い事をすべて無か

ったように、

そう……なにもなかったように、

深い深い心の奥底に追い込み、蓋をして

いた。



大切な者の死という現実を、また受け入

れたくない心の防衛本能が、強く強く働

いていたのだ。



そして、花梨は当たり前に生きているん

だと、嫌な夢を見ただけなんだと、自分

に強く言い聞かしていたのである。