(今日はバレンタインデー。

そして、花梨の命日か……)



ちょうど1年前の光景を雪は、蓋をした

記憶から引き出していた。



雪が知らせを受け、花梨のマンションに

着いたときは、もう助かる見込みはない

状態だった。



しかし、雪は必死に処置を施していたの

だ。



何回も何回も、大声で花梨に呼び掛けな

がら。



しかし、蘇生はすることなく、病院に運

ばれ死亡確認をすることになっていた。



それからの雪は、

目には見えているはずなのに、それが見

えていない感覚、


耳に音が聞こえてるはずなのに、それす

ら聞こえていない状態。


そういった心理状態のまま、ようやく花

梨のマンションに着いていたのだ。




しかし、雪の目からは涙が出ていなかっ

た。




処置を施していた自分。


病院で死亡確認をした自分。

でもそれは夢の中のような感覚で、

現実とは受け入れはしなかった。



そして、部屋を見渡していた雪は

1つのケースが机に置いてあったのを、

ただ呆然と眺めていたのである。