「ヒーロー…」
小さく呟いた時、投手の手から球が放たれた。
離れてすぐだが、外角低めのボール球だと判別できる。
それほどまでに外れていたのだ。
そこからはすべてがスローモーションに見えた。
連写モードで撮った写真みたいに、バットがゆっくり動いていく。
あんなボール球を振るなんて信じられない。
なのに止まらずにバットは回っていく。
視界以外のすべてが機能を停止した。
川の音もおっさんたちの声も、蝉なんかも聞こえない。
夏の太陽の日差しも感じられない。
生暖かい空気すら、吸うことのを忘れていた。
「うぉりゃー、かっ飛べー!」
