「俺、ヒーローなんだよ」


え、今この人、ヒーローとか言ったか?

「このくらいのピンチはな、逆転サヨナラホームランをかっ飛ばせんだ」

階段の半分を降りきって振り返った男の顔は、清々しいほどに笑顔だった。
心に感じていた不愉快や期待が一気に吹き飛んでいく。
身体の中が空っぽになった感じだ。




「プレイ」

主審のおっさんが威勢よく掛け声を上げた。
男はホームベースにバットを軽く二回打ち付け、やんわりとバッターボックスに立った。
そのユルりとした立ち方に、まったく打つ気が感じられない。
俺は土手を少し降って、しゃがみこんだ。
まるで、休日に孫のリトルリーグの試合観戦をしているおじいさんみたいだと思った。