その日の放課後。



彼氏に見放された私は独りで産婦人科に向かった。




通学途中のバスの車窓。



森林公園前のバス停に停車するたびに



毎朝のように「産婦人科」と書かれた屋上の古びた文字を見ていた。




毎朝何気なく見ていた風景の一部だった
のに




まさかその産婦人科に行くことになるとは夢にも思っていなかった。




家の近くの駅前の産婦人科は綺麗で広くて、人気がありそうだったから



住宅街の小さな診療所っぽい、ひっそりとした産婦人科を選んだ。




下校途中


森林公園に降り立った私は

緊張で手足が冷えきっていた。



梅雨の雨上がりの外は蒸されるように暑いのに


私だけ、梅雨寒のように震え上がり


喉は緊張のせいで、カラカラに乾いていた。



どうかしてる。




いっそ、どうにかなってしまった方のが楽かもしれない。


妊娠という言葉は


まだ子供でちっぽけな私には

余りにも荷が重すぎた。




人目に怯えるように、産婦人科への路地を曲がる。




アパートやマンションに囲まれた一角に

身を潜めるように、産婦人科が在った。




その外観は私の想像通り

古びた下町の診療所といった風貌で。



私は周囲に人が居ないのを確認しながら

恐る恐る

産婦人科のガラスの引き戸に歩み寄ってみた。




カーテンは開いていた。



看板に書いてある診察時間を見ると

診察終了時間をもう30分も過ぎてた。



それでも、中の待合室にはお腹の大きな女性が、一人だけ居た。



事務員も看護師も帰ってしまったらしく


受付には、マスクをした若い医師が一人残ってるだけだった。