「カズキ……」



怯える心に抑えられた声を


振り絞るよう出して彼氏の名前を呼んだ。


大好きな名前だったのに今は呼ぶ事すら、重苦しく感じた。




彼氏もそう感じてるみたいだ。



私と目を合わせようとしない仕草から、そんな思いが見てとれた。



私だって



自分に降りかかった出来事が重すぎて

受け入れきれなくて


自分が自分では無いようで

どうしたら良いかわからない。




友達に相談したって、どうにもならないし。



親になんて死んでも言えない。




だからカズキしか居ない……。




私は、固く閉ざしていた唇を開いた。




「産婦人科に来てほしいの……」





震える声で懇願した。




言葉を告げると同時に彼氏は一瞬だけ私を見て

また、視線をそらしてしまった。



私を見れないのか


それとも見たくないのか



どちらか分からないけど、私はこの気まずい空気が嫌で


また視線を伏せた。




死刑台までの階段を



のぼってる気分……。



バスの到着時刻が近付くに連れて


私の体中から不安がにじみ出てくる。



沈黙の後、バスの停車する音がして



カズキが一歩前に進んだのが見えた。




「大丈夫。中に出してないから。」




暗い表情のまま私を一切見ないまま呟くように言った。



ビックリする位簡単な返事をして




カズキはバスの中に乗り込んでいった。