ぐったりした御曹司を尻目に、食べ終えた食器を片付ける。

「俺はひとりでよかったのに……」

まだ言ってる。

「はぁー」

私はため息をついて、御曹司の側に立つ。

「時と場合を考えて下さい。こういう時は甘えるものです。それに……」

横たわる彼の頭を優しく撫でる。
安心させるように微笑を浮かべて。

「今回は駄目でも、またお願いして、次こそは一人暮らしできるように頑張りましょう」

まずは家事に慣れることから始めましょうか。
子供は母親の後ろ姿を見て学ぶものです。

「大丈夫、初めから何でも出来る人間なんていませんよ」

「お前は……」

「はい?」

「お前はいつ、料理を教わったんだ?」

真剣に見つめてくる御曹司。
その眼差しに誘導されるように、口が動いていた。

「物心ついた時には、忙しい両親に代わって、家の事はなんでもやっていました。それこそ、手探り状態で失敗も多かったけどね」

当時を思い出して、笑った。

「へー。祝前には、執事はいてもシェフやメイドはいないのか」

「………」

御曹司の鋭い意見に顔が強張った。

「流石、下流なだけあるな」

「……まぁね」

内心ほっと息をつく。
御曹司の勝手な思い込みのおかげで難を逃れた。

「変な詮索してないで、寝てください。呼んだらすぐに馳せ参じます」

これ以上ボロが出てはかなわない。
食器を持って、この場を退散した。