一般人令嬢は御曹司の婚約者

15分後、再び訪れた御曹司の部屋。
手には行平鍋と、お椀にスプーンを2つずつ。

「お待たせしました。……起きてますか?」

「寝てろと言ったり、起きているか聞いたり、どっちなんだ」

「作ってきたからどうかと思いまして」

行平鍋を掲げてみせると、御曹司は身を起こした。
サイドテーブルに持ってきたものを置いて、御曹司の背にクッションを積む。
そうして出来た簡易背もたれに、彼は背を預けた。

「少しは楽になりましたか?」

お椀に鍋からあつあつの雑炊をよそい、スプーンを挿して彼に手渡す。

「おかげさまで……」

「そう不貞腐れないでくださいよ」

椅子を引っ張ってきて、御曹司の傍にかける。
彼が雑炊を食べたのを見てから、もうひとつのお椀にも雑炊をよそう。
湯気の立つ雑炊に息を吹きかけて、冷ましてから食べる。

「うん、おいしい」

「って、お前も食べるのかよ!」

「いいじゃない。風邪の時って寂しくなるものでしょう」

「そんな気遣いは無用だ!」

「まあまあ、同じ釜の飯を食った仲じゃん?」

「鍋だけどな」

「屁理屈いわなーい」

「………じゃあ、口あけろよ。あーん、してやる」

「………」

自分のお椀をサイドテーブルに置き、御曹司のお椀を奪い取る。

「おい、何すんだ!」

「……逆でしょう?」

御曹司の上に乗り上げて、スプーンにすくった雑炊を押し付ける。

「やめろ、ペットの分際で、ご主人様に逆らうな!」

「今の私はあなたの監視役。おとなしく介護されてなさい」

「介護って、俺はまだそんな歳じゃない」

「黙って口を開けるのと、無理やり流し込まれるの、どっちがいい?」

雑炊をぐっと御曹司に近づける。

「どっちも断るー!」

御曹司がこのあとどうなったか。
ただひとつ言える事は、私はとても楽しんだ、ということ。