玄関で待ち続けて結構経った頃、ようやく目の前の扉が動いた。
見えたのは、この数時間で一気にやつれた御曹司。

何があった。

「お帰りなさい」

ふらふら。
おぼつかない足取りの御曹司が心配になって近づく。
私の姿を認めた瞬間、糸が切れた人形のように倒れたものだから、慌てて駆け寄り、床と熱烈キスをかわす前に彼を支えた。

あっぶなー。
ちょっと重いけど、仕事という名の筋トレの成果をなめんな。

「どうしたの、ほら、ちゃんと立つ」

わきの下で支えた手を引き、上体を起こすと身体が密着した。
身長的に御曹司は膝立ち状態。
眼下には彼のつむじ。
触れるところから、熱すぎるくらいの体温が伝わってきて。
この密着状態にどきどきする。

……わけないでしょ。

いくら空調が効いているからといっても、くっつくと暑い。
それに。

「あんた、物理的に熱すぎる」

片腕で背中を支え、空いたほうで額に触れると、予想したとおり。

「熱出して帰ってきた……」

どこまで少女マンガのテンプレ通りなの。

ま、どこか路上で倒れられるよりはましか。
なよなよしいボンボンの割にはよくやった。

「やれやれ、慣れないことをするからですよ……」

精一杯の賛辞を胸に、御曹司に肩を貸して部屋まで引きずって行った。

靴を脱がし、ベッドに押し込む。
ブレザーを脱がし、ネクタイを抜き取る。
本当なら、着替えさせるべきなんだけど……。
諦めて布団をかぶせた。
意識がしっかりしたら、自分で着替えてもらおう。

私は、氷水とタオルを用意し、御曹司を夜通し看病することに努めた。