その時、御曹司が何かしらひらめいたようで、衣装棚を荒らしだす。
おいおい、それ、自分で片付けるのかい?
自分で荒らしたものを自分で片付けるむなしさは、言葉にできないものがある。

「あった!」

目的のものを持って戻ってきた御曹司。
その手の中にあるのは茶色い布。
これに着替えて来いと渡され、その場で広げてみる。
つなぎのパジャマ、犬仕様。
ご丁寧に、フードには犬耳と背中側に丸まった尻尾が縫い付けられている。

「この期に及んで、また私にペットになれと?」

「だって、そのほうが自然だろ」

「断る。今の私は監視役ですから」

「仕方ないな……。じゃぁ………」

踵を返して衣装棚に近づく御曹司の背に、ひとつ声をかける。

「言っとくけど、猫でもお断りよ」

御曹司はその場で立ち止まり、ぐるんと振り返る。
さながら、だるまさんがころんだの鬼役だ。

「……どうして次の衣装が分かった!? エスパーか!」

「違います」

あんたが単純なんですよ。
でも、私のことが気になって、御曹司の本領が見れないなんて本末転倒。
少しでも気が紛れるなら。

「………分かりました、着ます。これを着ますから、猫はやめて」

「ふーん、お前猫嫌いか。いいことを知った」

悪人面する御曹司。
私は、あきれた目でそれを見る。
本当に猫嫌いなら、カチューシャベルトの猫耳尻尾で音を上げていたわ。
そうじゃなくて、この三日が終わると、あのぐちゃぐちゃ衣装の片づけをさせられる使用人を思ってのこと。
ボンボンが自分で片付けるなんて、天地がひっくり返ってもありえない。
現に、出したら出したまま放置。
子供以下ね。
こりゃ近いうちに降参の声を聞けそうだ。

今、御曹司は机に向かって教科書とノートを広げている。
その背を見ながら犬パジャマに着替えた。
きぐるみじゃないだけましか。
にしても、どうしてこんなもの持ってるのよ。
嫌がらせなの? 嫌がらせの一環なの?
御曹司には着れないサイズで、それ以外に考えられない。