御曹司は、使用人がいないと何も出来ないとバカにされた。
だったら一人で生活すればいいんだろ。
という考えに辿り着き、今に至る。

「そういうわけで、隆雄が三日間一人で生活出来たなら、使用人の解雇を認めようと約束してきた」

当主は楽天的に笑った。
今までお世話されてばかりだった奴が、急に一人で何でも出来るわけがない。
これは勝ち戦だ。
分かっているけれど、もしもの事態を想像してしまう。
賭けられる使用人達の心臓はバクバクものですよ。
なんたって、無職の危機ですから。

「ついては、明日から三日間使用人に休暇を与えることにした」

「さようでございますか」

「ここで頼みなんだが、その三日間、麻里奈さんに隆雄の監視役をお願いしたい」

「………監視役、ですか」

多少は予想ができていたので、素っ頓狂な声を上げずに済んだ。
だが、すぐに返事はできず迷ってしまう。

「嫌なら嫌と言ってくれて良いんだよ。ただ、隆雄一人にしてはおけないし、使用人に頼むのも問題だろう? 頼めるのは婚約者候補の麻里奈さんしかいないんだ」

まったくこの人は、人の心理をついてくる。
あなたしかいない。
特別を感じるこの言葉を言われて、揺れない人はあまりいない。

「それに、最近は麻里奈さんを傍においているんだろう、最近の隆雄の顔がいいものになったと使用人達から聞いたよ。あんなに人を遠ざけようとしていた隆雄がこんなに入れ込むなんて、よほど麻里奈さんを気に入ったと見える」

そして褒める。
褒められて、調子に乗らない人なんてあまりいない。

「だから麻里奈さんなら監視役として適任だと思うんだけど、どうかな?」

最後にとどめの一突き。
エセ爽やかな笑顔つき。
私はそれにキラキラ増量中の営業スマイルで応える。

「謹んで、お引き受けいたしましょう」

「そうか、助かるよ」

当主の笑顔に、だまされてくれた、というニュアンスが含まれているのに気付いていないわけじゃない。
ただ、私と当主の利害が一致した。
だから引き受けることにした。
それだけの話。
三日間の休暇ということは、三日間この屋敷を出て行かなければならないということ。
私はここを出ても行くあてがないの。

にしても、さすが親子。
揃って祝前を馬鹿にしているようね。
本当は悪かったなんて、微塵も思ってないでしょう。
下げた頭の下で、どんな表情を浮かべていたかなんて、想像に難くない。