それに、あながち間違ってはいない。
次の日も、質の高いお世話を提供するためのコンディションを整える。
これも立派な業務だと思いませんか?

「皆さん、口に出しては言いませんが、ご主人様のことが大好きですよ」

「……そうかよ。なら、しかたない」

あっさり引き下がる御曹司に拍子抜けする。
でも、分かってもらえたならありがたい。
いかに周りに支えられているのか、知れば使用人を気遣うようになるだろう。

「今から、この屋敷の使用人全員に休暇を出す! 期間は無期限」

「はぁ!? それってクビってことじゃ…」

「俺がひとりでも生きていけるってこと、証明してやるよ」

「待ちなさい!」

回れ右をし、今にも駆けて行きそうな御曹司を全力で阻止する。
腰に腕をまわして、両足を踏ん張り、引き止めた。

「解雇するには正当な理由が必要よ。それに、最低でも1ヶ月前には本人に通知しておく必要があるの」

「止めるな! ここでは俺がルールだ」

ずんずん歩く御曹司に引きずられるが、私は負けない。

「そんな治外法権が通用するわけないでしょ!」

「うるさい! 俺は、使用人なんかに頼らなくてもやっていける!」

「ガキのくだらない気まぐれに大人を巻き込むんじゃない! 働くからには、給料をもらっている。生活がかかってるんだ。そんなことも分からないのかボンボンは!」

「ボンボンだと!?」

御曹司は私の腕の中で身を翻す。

「お前は俺が金持ちだから僻んでるのか? あいつらは好きで働いてるんだろ。ってことは、自分から俺の駒になりたがってる奴らってことだ」

「ちょっと家柄が良くて、ちやほやされて、勘違いしてるんじゃないわよ。あんたは使用人をそんな風にしか思ってなかったの?」

「俺がいつ、家柄のことを鼻にかけた!」

「いつもです。私に『祝前がどうなってもいいのか』と脅してきたのは誰ですか」

「俺はただ言っただけだ。脅してなんかない」

「あなたはご自身の影響力を知るべきです。たとえその気はなくとも、下位の者は泣き寝入りするしかないの。気まぐれに振り回されるなんて、堪ったものではないわ!」

「気まぐれじゃない、俺は本気だ!」

私は日々の不満をぶつけるように叫ぶ。
御曹司もそれと同じ勢いで返してくる。
起床した使用人達が続々と、遠巻きに集まりだした。