昨日寝坊して叱られたんだろ、ダッセー。
と、続けて馬鹿にしてくる。

「ちゃんと起きてるし。………槍でも降るんじゃないの?」

「バカにしてんのか」

「そうでもないと、わざわざこんな所までゴシユジンサマがお越しになる理由がないわ」

「た、たまたま俺の朝の散歩コースなんだよ!」

ムキになって反論する御曹司。
今までに、御曹司が早朝ウォーキングをするところなんて、見たことない。
明らかな嘘。
これは何かあると疑わない方がおかしい。
私は、威圧的な営業スマイルを作る。

「なにを企んでいるのかな?」

「何もない。ただ、お前の寝顔を拝んでやろうかと……」

御曹司はモゴモゴとあさっての方を向きながら答える。
彼は、ちょっと訊いただけで吐いた。
あまりの口の軽さに呆れていると、人差し指を突き付け、怒りだす。

「お前は俺の寝顔見てるくせに、俺だけ知らないなんて不公平だろ!」

意味がわからん。

「使用人は主人より後に寝て、先に起きるものですから、当然です」

いかに主人に快適に過ごしていただけるのか。
使用人は常に試行錯誤し、努力する。
気持ちのよい朝を迎えていただくために、朝早くから準備を惜しまない。
これぞ、使用人の心得。

「んなもん知ったことか」

「知ってください。あなたが今日まで何不自由なく生活出来ているのは、使用人が心を砕いているからです」

「どうせ仕事としか思ってない」

「たとえ仕事だとしても、主人を想う気持ちに嘘はありません。我々使用人は、プライドを持って、日々の業務に勤しんでおります」

私は御曹司の正面に立ち、真っ直ぐ目を見て訴える。
使用人を愚弄するなんて、許せない。
御曹司は押されぎみになりながらも、反論する。

「お、お前なんて、いつも俺に反抗してばかりで、俺のことなんて、ちっとも、思ってないじゃないか!」

最後の方は嗚咽まじりになっていた。
どうしたんだ、何があった。
厚顔で俺様もどきな変態はいずこに。
彼は、泣き落としをするような奴だったか?
でも、たとえ泣き真似だと分かっていても、泣かれると罪悪感が生まれだす。
良心が痛い。
確かに昨日は、御曹司のことより自分の睡眠を選んでしまった。
使用人としてあるまじき行為だ。

「誤解です」

でも、そこには触れず。

「………これも、主人を思ってのこと。愛ですわ」

誤魔化す。
割と自分の欲に従い動いているが、それすらも愛のムチと言い張ろう。
今さら謝るなんて、恥ずかしすぎる。