言うだけ言って、彼は興味をなくしたようにこの場を去った。
私の心に嵐を巻き起こして。

借金、トラウマだ。

過去にどれくらい、そのものに苦しめられてきたことか。
ああ、こんなときは熱い湯につかろう。

早鐘をうつ心臓をなだめ、一歩踏み出そうとした。
瞬間。

「んっ………!」

鮮やかな手つきで口をふさがれ、声が出せなくなる。
ついでに両腕もひねり上げられ、あれよあれよという間に暗くて狭いところに押し込まれた。

バタンという戸を閉めたような低い音が数回。
重低音がしたと思ったら床が揺れて、車の中だろうと予想する。

走り出す車に、拘束された身体。
私の頭には『絶望』の二文字しかなかった。

なにこれ誘拐!?

逃げ出したくても、震える四肢に力が入らない。
些細な抵抗さえ出来ない今の自分が、情けないほどに。

どうしてこうなったの。
同じ台詞を繰り返す。

揺れる車内に押さえつけられた体勢。
気分が悪くなるのは当たり前だ。
考えることをやめ、吐き気を堪えることだけに意識が向く。
だから、車が停まったことに気づいたのは、半ば乱暴に冷たい夜風に晒された時だった。