さて、あとは御曹司が寝静まれば、本日の業務は終了。
見えてきた終わりに気が抜けた瞬間。
顔面に柔らかいものが押し当てられた。
一瞬視界が暗くなり、すぐさま離れたそれを目で追う。
…………それは、部屋の隅に積まれていたクッションだった。
何が起きた。

「まだ夜は始まったばかりだ。勝ち逃げは許さない」

勝ち逃げって、大浴場での銃撃戦のことですか。
クッションの山の横に立つ御曹司は、手に持った別のクッションを振りかぶり、投げる。
まっすぐ飛んでくるそれを両手でキャッチした。
売られた勝負は高く買いましょう。
枕投げって、憧れだったのよねー。
私は、手にあるクッションを御曹司に投げ、尻に当てる。
補充とはいえ、敵に背中を向けるからだ。
振り向く御曹司に、ウインクと同時に舌を見せる。

「べーニャン」

「やりやがったな!」

次々と投げてくる御曹司のクッションを全て避け、一投一投を確実に当てる。
ちょっと待った待った、私が気持ち悪かったからって、そんな怒ることないじゃんか。
御曹司は手元にあるクッションが最後のひとつになると、接近戦を仕掛けてきた。
私は3個ほど抱え、逃走する。
すれ違いざまにひとつ投げ、御曹司のノーコンのせいもあり。
部屋に不規則に散らばるクッションを、拾っては投げ、拾っては投げの繰り返し。
走る、しゃがむ、投げる、時々避ける。
簡単そうだが、体力消費が半端じゃない。
ああもう、浴衣邪魔。
最後のほうはお互いへろへろになりながらも健闘した。

………そこから先は、覚えていない。