一般人令嬢は御曹司の婚約者

「おい、起きろ」

「…………はっ!」

二人羽織のようにして餌付けされた私は、おなかいっぱいになって船を漕いでいた。
しかも、御曹司の膝の上で。

「も、もうしわけございません、すぐに降ります…」

「いい、このままで………」

御曹司は私の腰をより強く引き寄せた。
背中が、御曹司の胸にあたる。

「軽いな、ちゃんと食ってんのか?」

「……余計なお世話ですニャー」

あなた様のせいで、夕食抜きが続いていたのです。
ちょっとした反抗で、ふいっと御曹司とは逆の方向に顔を向ける。
すると、うなじの辺りに息遣いを感じた。
膝の上にいるせいで、あまり変わらない頭の位置。
振り向けば、正面から顔をつき合わせることになるから動けない。

「……甘い匂いがするな」

「そりゃ、あのシャンプー甘かったですもん、砂糖菓子のようでしたニャー」

「お前、アレを食ったのか? 物好きな奴」

あんたのせいでしょ。

「あれは、子供がまちがって飲み込んでもいいよう、甘くしてあるんだ。ついでに言うと、人体に害はない」

「………売れるのニャー?」

普通、子供の誤飲を防ぐために不味くするはず。

「さあな。うちの会社で作った非売品だから、わかんねぇ」

絶対、売れない。
なぜそんなものを開発したのか、バカらしくなるほどくだらない商品じゃないの。

「開発部は売りたかったみたいだけど、他が全て却下してるからな。市場に出ることは無いと思うぜ」

そりゃそうでしょうとも。
よかった、草薙の家はバカばかりじゃないみたいで。

「食器をお下げしますので、放してくださいニャー」

「ああ、悪い」

ぱっとあっけなく解放され、食器を片付け御曹司の下にもどる。