部屋に戻り食事を取る御曹司の横で、私はぐったりとしていた。
人に洗ってもらうのが、あんなにくすぐったいものとは思っても見なかった、というのが一番の感想だ。
あの後湯船に浸かっても、疲れが取れた気が全くしない。
しかも、今の格好は浴衣に猫耳尻尾。
どちらも御曹司が用意したものだ。
彼のことだ、考えなしで選んだわけではあるまい。

「はー……」

「なんだ、腹減ったのか」

的外れなことを聞いてくる御曹司。
全てはあなたさまのせいだ。

「いいえニャー」

答えた瞬間、私のお腹が鳴った。

「やっぱり空いてるんじゃないか。……ほら」

「…………」

フォークに刺したポテトを差し出してくる御曹司。
その顔は、さぁ食いつけとばかりに偉そうだ。
私は何のことかしらとつーんとした態度を返していたのだが、次から次へと鳴るお腹に、もうごまかしが効かないところにまできていた。
私のお腹よ、頼むから、空気を読んでくれ。
いたたまれない。
昼が少なかったことが災いしたか。
背けていた顔を御曹司に戻せば、彼はフォークをぷらぷらとさせていた。
まるでおもちゃを揺らして私を呼んでいるようだ。
無性に飛びつきたくなるのを、理性で押し留める。
形は猫耳尻尾でも、頭まで猫になったわけじゃない。
お腹なんて、空いてないもん。
ひたすら心の中でつぶやいていたのに。
次の瞬間、本日最大の腹の音が鳴った。

「もうお前こっちに来い!」

御曹司に強引に腕を引かれ、膝の上に座らせられる。

「ちょ、降ろして…はむっ!」

抗議しようと開いた口に何かが押し込まれた。
反射的に噛んで、飲み込む。
そしてまた別のものが押し当てられた。
閉じたまま拒否することは簡単だ。
けれど、そんなことしたら口周りそのたもろもろが大変なことになる。
しかたなくだと己に言い聞かせて、勧められるままに口にした。

「何かこれって、二人羽織みたいだな」

「……的を射た言葉だと思いますニャー」

親子とか恋人とかいう言葉が出てくるものだと思っていた。
予想外すぎてどう答えようか迷いましたわ。
……まあ、御曹司が楽しそうにしてるから、もういいや。