本日の営業が終了し、掃除片付けを終えるとバイトは終わる。

「お疲れさまでした」

「気を付けて帰れよ」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」

出口まで送られ、私はお店に背を向けて家路につく。
後ろでは戸を閉めて、鍵が閉まる音がした。
店の奥には、マスターの居住スペースがあるからだ。
私はぽつぽつと街灯の並ぶ道を進む。
しばらく歩いたところで、私の住んでいるマンションが見えてきた。

家賃は一月、二万五千円。
上京した人のための学生マンションらしいが、空き部屋があったため、マスターのコネで住まわせてもらっている。
金額に見合った小さなところだけれど、ひとりで暮らしていくには十分な広さだ。

いつもは静かなそこに人だかりを見付けて、はてと首を傾げる。

何かあったのかな。

まあ、私には関係ないと素通りする気でいた。
が、騒ぎの中心が私の部屋近くだというのなら、話は別。
問答無用で関わらなければなるまい。

「あの、どうしたんですか?」

野次馬の最後尾にいる人に問えば、彼は私の部屋のある方を顎で示す。

「あの部屋な、差押えされてんだよ。噂では莫大な借金抱えてるらしいな。ったく、近所迷惑な話だ」