御曹司につれられてきた場所は、校舎裏だった。
校舎にもたれて座る彼との間に一人分空けて隣に座る。

「そう恥ずかしがるな。こっちにこい」

「あっ……」

腕を引かれ、バランスを崩した私は御曹司にひざまくらしてもらう形になる。
認識したと同時、恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じた。

「なに? 耳かきでもねだってんの?」

「ちがいます」

「残念だったな。耳かきしてもらうのは男の特権だ」

「話を聞いてませんよね」

「女の子の柔らかい膝の上に乗る至福ときたら………」

「シャラップですわよ公然わいせつ物」

しまった、つい癖で………。
でも、御曹司は楽しそうに笑っていた。
怒ってはいなさそうだ。
でも、いつまで許されるかなんてわからない。
藤宮も怖いし、今度こそはおとなしくしていよう。
新たに決意を固め、冷静に御曹司の側近を演じることを誓おう。

「じゃあ、昼ごはんにしようか」

御曹司はビニール袋からパンをいくつか取り出す。
袋を開けて、起き上がったばかりの私の口元に差し出してきた。

「あーん」

「自分で食べられます」

手を出すと、パンはひっこめられた。

「だーめ。ペットはご主人様の手からしかご飯を食べないの」

「誰かに見られてもいいんですか」

「見せつけてやればいい」

好青年顔で言われて、ドキッとした。
イケメンは得だねー。
この顔に騙された女の子たちが、一体いくらいることか。
外面だけはいいんだから。

「はい、あーん」

「………」

決して私は彼に屈したわけではない。
断じて。
ただ、昼ごはん抜きはきついと思っただけ。
それ以外に理由はないんだから。

「ぁ……」

小さく口を開けると、控えめにパンを押し当てられた。
少量かじって、咀嚼する。

「よくできました」

綺麗に微笑んだ御曹司にときめいた、なんてこと、墓場まで持っていってやる。