一般人令嬢は御曹司の婚約者

内心、御曹司にどう訂正を入れようかと悩んでいると、彼女について教えてくれた。

「天花寺麗(てんげいじうらら)っていう、外見に似合わない名前でさ。花園女学院の生徒で、姉弟校の交換学生で最近来たんだと。ったく、呼ぶならもっとかわいい子を連れて来いよな」

「そう………」

私は努めて気のない返事を返す。
聞き逃せない単語がひとつ。
花園女学院……、祝前麻里奈が通っていた学校だ。
ということは、きっと本物の祝前麻里奈を知っている。
彼女が私のことを『祝前麻里奈じゃない』なんて言ったら、一巻の終わりだ。
帝都湾にコンクリで沈められるかもしれないし、何にせよ、私の寿命が縮んでしまう。
なるべく視界に入らないよう、こっそり過ごそう。
そう決意した。

「草薙ー、担任が呼んでたぞー!」

「今行くよ………ということらしい。行ってくる」

「逝ってらっしゃい」

間違いなく、全ての元凶は御曹司だ。
責任転嫁甚だしいと言われようが、これが事実。
おちゃめな冗談ととれる悪意を込めて、教室を出て行く彼を見送った。
その姿が見えなくなると、一気に私の周りに人が集まった。
一難去ってまた一難。
元凶が去っても爪痕は残る。
それは主に女子の集団で、新入りに興味を示して集まってきたのとは雰囲気が違う。
中心に立った一層派手な代表格の女生徒が口を開く。

「ちょっといいかしら」

有無を言わせぬ声。
一般人の私には従うほか選択肢はない。
ああ、最近こんなんばっか。
それから私は女子集団に囲まれて、教室を連れ出される。
それもこれも、私をここに連れてきた御曹司が悪い。
なるべく視界に入らないどころか、無駄に注目を集めている。
問題、こうして、女子集団に絡まれることになったのはなぜか。
部外者だから? メイド服だから? 御曹司のせい?
前二つ、要素としては捨てきれないが、主な原因は御曹司、君のせいで。

ふつふつと思いつくままに、御曹司への恨みを吐き出していると、解放された。
周りを見て、初めて気付く。
導かれるまま、考えなしに歩いていたから、いつからか分からないが、外にいた。
隣には校舎、ここは小さな森のようなものかなとあたりをつける。

「なんで連れてこられたか、分かるよね」

あー、面倒なことになった。