一般人令嬢は御曹司の婚約者

答えの返らない問いをしていると、教室に入った。
先ほどまでは休み時間独特の騒がしさがあったそこは、一瞬にして静まり返り、爆発した。

「キャー!!」

例に漏れず、女子は悲鳴。

「草薙! そのかわいい子どこから拾ってきた!?」

「うちの使用人。……あげないよ」

男子が御曹司に問いかけ、御曹司はそれに笑顔で答える。
余計なことに、私を後ろから抱きしめるというおまけつき。
そんなサービス、いらない。
ひどくなる悲鳴。

「おっ、届いてるね」

御曹司は耳がおかしくなりそうな悲鳴をまるっと無視して、私の肩を抱きながら優雅に歩く。
一番後ろの席に私を座らせた。
肩を押さえつけられているせいで、逃げられない。

「そこの席って……」

「この子、学校に行ってないみたいでさ、一日だけでも学校の雰囲気を味わってもらおうと思って。いわゆる体験入学みたいなもの」

「そっか」

近くに来た男子の質問に軽く答える御曹司。
男子は納得したようで、離れていった。
え、今のでわかったの?
どうしてこうなったのか、私にはさっぱりなんだけど。
そんな気持ちを察してか、御曹司が耳打ちしてくる。

「今日1日は俺の傍で過ごすこと。ここの教師には言ってある」

なんですと。
ずーっと御曹司と一緒だなんて、たまったものではない。

「困ります、私にはお屋敷のお仕事が…」

「その辺はミスズに言ってある」

「だとしても、門の外に人を待たせています」

「………」

言い返されず、納得してもらえたと思ったが。

「それって、誰?」

背筋がゾクリとするような声を吹き込まれた。
怒っている……なぜ?

「………」

「ねぇ、だれ?」

答えずにいると、催促される。

「……ふ、藤宮。祝前の執事………」

「なんだ、だったらいいよね」

隠すほどのことではないから、素直に答える。
すると、御曹司は拍子抜けするくらい明るい声に戻った。