にしても、私は御曹司に、問題集だけ渡したら帰るつもりだった。
だから、なぜ学校の、しかも校舎内に連れ込まれたのかが理解できない。
生徒の行き交う廊下を歩きながら、御曹司が小声で話す。

「問題集サンキューな、助かった」

「いえ……」

失言のないように、口数を減らす。
屋敷の中ならいざ知らず、こんな公衆の面前で喧嘩は売れない。
それに、藤宮に再教育を受けたばかりで、御曹司に反抗する気は皆無であった。
にしても、制服の中に1人メイド服はかなり目立つ。
おまけに、肩を抱かれて歩いているので尚更。
お陰で周りからの視線が痛いのなんの。

「なによあの女、草薙様にあんなに近づいて!」

「身の程をわきまえなさいよ!」

「草薙様が迷惑しているのがわからないの!?」

なんて、陰口じみたことを大声で言われれば、逃げたくもなる。
少しでも距離をとろうと身をよじるが、御曹司の手は逆に強くなった。

「どうしたの?」

「……離してください。皆が見ています………」

「気にするな、見せ付けてやればいい」

「キャー!!」

「…………」

周囲の女子どもの悲鳴が五月蝿い。
そして、なんだ、御曹司のこのキャラは。
とりはだ通り越してじんましんが……。

「ってゆうか、草薙様にあんなことされて断るなんて、許せない!」

「そうよ!」

そこの女子たちよ、近くにいるのもダメ、断るのも許せない。
だったら私はどうすればいいのかな?