話を聴け。
そして入るな絞るな。
水溜りが一気に広がる。

「あのときは、まさかこんなことになるなんて思っていませんでしたから。次からは替えの服を持参しますワン」

「そのままじゃまずいだろ、ちょっと待ってろ」

そう言って、御曹司はここを出て行く。
しばらくして戻ってきた彼の手には白い布があった。

「まずは体拭け。なんなら俺がやってやらんこともない」

「謹んでお断り申し上げますワン」

ニヤついた顔をする御曹司を営業スマイルで一蹴して、手の中のものを受け取る。

「あっそ。じゃあ、出たとこで待ってるわ」

すんなりと出て行った御曹司の後ろ姿を見送る。
不自然なほどおとなしいではないか。
草薙の名前を出して居座るかと思ったんだけど。
これは彼が変態であるという位置づけを考え直さなくてはならないな。

私の名誉のために言っておくけど、別に居座って欲しかったわけじゃない。
メイドを使ってした悪行の数々を私は決して忘れない。
やるなら自分の手でやれっての。
だから今は、昔よりも気持ちがはっきりしてる。
御曹司は自分の手で私をこき使う、メイドは自身の嫉妬で嫌がらせを施す。
命令されて仕方なく、といったやりきれなさがない分、単純でよろしい。

メイド服を脱ぎ捨て、体を拭き、御曹司の持ってきた服を広げて、固まった。